ポリタス

  • 論点

企業は復興を創り出し、復興によって自らを変えられるか

  • 藤沢烈 (一般社団法人 RCF復興支援チーム 代表理事)
  • 2015年3月14日

復興は5年目を機に次のステップへ

前回のポリタス「総選挙2014」特集では、「官僚主導でも政治主導でもない、民間が実行する政治を」と題して、復興は民間主導によってこそ進むと論じました。震災から4年たった今、被災地で必要な復興はハード(インフラ)からソフトへと移ります。行政の復興計画も出揃っていて、意思決定よりも行動が重要になる段階です。「被災者が復興に参画することで、復興感が増す」――過去の震災からの教訓です(『生活復興感が低い被災者はどのようなタイプか?』<復興の教科書>)。復興はトップダウンで政策を進めるのではなく、被災当事者である東北沿岸の老若男女が復興に参画する機会・環境づくりが必要です。


撮影:初沢亜利

ただし民間主導の「民間」は、被災当事者だけではありません。これからの復興には、実は企業の活躍が鍵となります。

震災復興を通し、「社会のために働く」企業が増えている

2015年3月11日に拙著が書店に並びました(『社会のために働く 未来の仕事とリーダーが生まれる現場』講談社)。この本では東北で新しい働き方や事業が生まれていて、その担い手に多くの大手企業がいるということを、具体的事例とともに紹介しました。どの企業も「社会に対して自分たちは何ができるか?」という問いを持ちながら被災地の課題と向き合い、本業の強みやノウハウで復興に貢献しています。行政やNPO、異業種間での新しい連携も生まれています。

本書でも紹介した事例から、代表的な取組を3つ紹介します。

社会や地域と向き合う企業たち(1)ーグーグル

被災地の人たちからのメッセージがきっかけで、その後グーグルが提供する製品の一機能となったものがあります。それは、ストリートビューの「タイムマシン機能」です。

”東日本大震災では、津波で家が流されたときに、家族の思い出が残ったアルバムも流されてしまった人が大勢いました。そうすると、ストリートビューに映っている自分の家が唯一残っている画像となった人が、ずいぶんいたのだそうです。最新の写真で被災地のストリートビューを上書きしてしまうと、昔の画像は見られなくなってしまいます。後世に被害の爪痕を残そうとするグーグルの撮影活動を評価する声と同時に、昔の家の様子を残してほしいという被災地からの署名運動が起こりました”(P49)

その声に応えたのが、昔の街の様子を見ることができ、被災地限定で震災前と後の画像を比較できるサイト『未来へのキオク』でした。これが今の「タイムマシン機能」の元になりました。特別サイトの公開の”反響”は、たとえばこうでした。

”被災地だけではなく、この試みを世界中で実現してほしいという要望が河合さんのもとに集まってきたのです。その要望の中には「おばあちゃんがポーチに座っていて、それが生きていたころのおばあちゃんの最後の姿なのです。できれば残してください」といった少女からのメッセージもあったそうです”(P50)

被災地の要望と課題に向き合った結果、グローバル展開につながる技術革新が生まれたこの例は、まさに被災地で生まれた新しい価値の1つです。

社会や地域と向き合う企業たち(2)ーキリングループ

キリンによる「復興支援 キリン絆プロジェクト」は、グループをあげて取り組む復興支援活動で、RCFは水産業の復興支援・農業の復興支援をご一緒しています。現在は2013年からの第2ステージとして、生産支援だけでなく、農作物・水産物のブランド再生・育成支援、6次産業化に向けた販路拡大支援、将来にわたる担い手・リーダー育成支援などを継続しています。たとえば次のような支援をおこないました。

”これらの支援を通じて生まれた異業種のコラボレーションに釜石市の「釜石オープンキッチンプロジェクト(通称:海まんプロジェクト)」があります。リアス海藻店、浜千鳥酒造、三陸いりや水産、ヤマキイチ商店、小島製菓という異業種の若手経営者5人がタッグを組みました。2014年10月に発表された第一弾の海まんは、小さくて商品にならない海産物に着目してサンマ、カツオ、ホタテの3バージョンが作られました。ゆくゆくは「海まん」というネーミングを共有して、仙台の笹かまに匹敵するような地域のブランドを作ろうと話しています。”(P87)

行政が平等に均一なサポートを行う役割を担う一方で、民間企業として意欲的な事業者と一緒に成功事例を作り出したという点で、キリンは産業復興支援の新境地を作り出しました。

社会や地域と向き合う企業たち(3)ーUBSグループ

スイスを本拠とする金融グループ、UBSグループが岩手県の釜石で実施するコミュニティ活動も、社員の専門性を活かして価値を発揮している事例です。社員たちが現地に通うだけでなく、地元の若手事業者グループ「NEXT KAMAISHI」とも連携し、地域のニーズに寄り沿いながら活動を続けています。その成果の1つが、震災によって中止を余儀なくされていた、「釜石よいさ」という祭りの復活です。

”NEXT KAMAISHIのメンバーとUBSの皆さんが最初にやったのが、釜石駅前で100人に街頭インタビューをすることでした。インタビューの結果は、祭りを復活させてほしいという声が多数でした。そこでどのように祭りの準備を進めるか、NEXT KAMAISHIのメンバーとディスカッションを重ねたのもUBSです。ホワイトボードに向かって課題を書き出して、この課題は誰がいつまでに解決するのか、とUBSの人たちが問いかけるわけです。何度も何度も釜石に通い、プレスリリースの作成、資金集め、会場周辺の危険箇所の点検や清掃など、祭りに不可欠だけれど根気のいる裏方の仕事を自ら買って出るUBSのメンバーとふれあうにつれ、釜石の人たちはUBSの皆さんと心を通わせるようになります。最初の検討会から約6ヶ月後、「釜石よいさ」は3年ぶりに復活し、予想をはるかに超える700人以上が祭りに参加しました。”(P155)

活動を通して、釜石の皆さんとUBSは、被災者と支援者の関係を超え、対等なパートナーシップと信頼関係を築くようになりました。企業がまちづくりに関わることは、行政にとっても住民にとっても、今までにない新しい視点をもたらします。まちでの話し合いの場に多様性が生まれたり、企業の得意とする広報によって、外への発信が強化されたりします。企業にとっても地域と長期的に関わることで、社会課題を軸に新たな事業を生み出すきっかけにもなるのです。

東北の復興は社会全体の希望にもつながっている

企業が復興支援に関わることで、行政の役割である「平等」「インフラ整備」といった枠を越え、積極的に集中してソフト面での成功事例を作ることができます。グーグル、キリン、UBSのように、自分たちが社会に貢献できることを考えて行動するという姿勢は、これからの企業の標準形になります。

グーグルの「タイムマシン機能」だけでなく、東北で生まれる”被災地モデル”が他の地域で活用される例が出てきています。2015年3月8日に放送されたNHK『サキどり』でも紹介されましたが、たとえば食材と冊子をセットで宅配し、生産者と消費者をつなぐ試み「東北食べる通信」や、大手電機メーカーと石巻の医師が共同開発した在宅医療システムなどは、既に全国各地で応用され始めています。

人口減少や高齢化、過疎化、コミュニティの減少、資源不足など、今東北で起きている課題はこれからの日本全体でもより顕在化します.東北で起きている新たな関係性や仕組みは、ますますこれからの社会を支えるものとなるでしょう。そういう意味でも、今起きている東北復興の胎動は、被災地の外にいる方にとっても無関係ではないのです。ぜひこれからも東北の復興の動きに注目していただきたいですし、一人ひとり、あるいは組織として、「社会のために何ができるか」を考え、価値を生み出す動きが日本や世界のあちこちで活性化してほしいと願っています。


撮影:初沢亜利

リクルートの創業者・江副浩正氏が生んだ社訓に、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉があります。この言葉同様に、企業は復興において自ら機会を創り出し、復興によって自らを変えようとしています。そうした企業の取組みに、今後も注目してまいります。

本稿内の事例の詳細やその他の事例も、ご興味のある方は拙著(『社会のために働く 未来の仕事とリーダーが生まれる現場』講談社)で読んでいただければ幸いです。

著者プロフィール

藤沢烈
ふじさわ・れつ

一般社団法人 RCF復興支援チーム 代表理事

1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、RCF復興支援チームを設立し、情報分析や事業創造に取り組む。文部科学省教育復興支援員も兼務。共著に『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』(朝日新聞出版)、『「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』(春秋社)。

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